は今日もカウンターに立つ ⑴

時の流れは同じのはずだけど、この場所は特別だと私はいえる。柱やテーブル、棚やカウンターまで木組みで出来ている独自の香りや空間。各テーブルやカウンターを照らす豆電球の照明。そして一番大きな音をだす焙煎機。全てが必要で全てが整っている。ただ違うのは私。お世辞にもならない程に浮いている。本当に私でいいのか、否か。先代にあたる祖母は迷わず私を指差してから旅立った。その顔は穏やかで笑っていた。私と対面して話を交わした日々で一度も見せなかったのに。祖母らしいといえば終わりだが私はこの場所での仕事は出来ない。他店にもある、ただ一杯のコーヒーもサンドウィッチもケーキも。ただ祖母が書き残したのであろうと思うメモ書きを頼りにこれからは切り盛りをしないといけない。ただ一言だけ言われた。「この店は一日一客。ただ一人のお客の声をあんたが聞くだけだよ」それで経営が成り立つのかと思うが帳簿を見る限り、ままになっていた。そして付け加えるように「この店にレシピはない。メニューもない。お客の声にお客が値段をつけ店に支払う。あんたは聞くだけ、だから余分な勉強は要らないんだよ」と。ただ聞くだけなら本当に楽だがその後がある。「レシピがない。だがお客は注文を言う。そのリクエストに応えられるかがあんたのこれからの仕事だよ。風香」