最初の客人は

スプーンでカップの底に溜まった砂糖を救い出して口に入れた。
「どんな方でしたか? 」
カウンター越しに聞いた。
「まだ私がコーヒーを覚えた頃だった。今のようなカジュアルのような店はなく、スーツにワンピースのような服装で、どちらかといえば高級だった。当然だが町工場の作業着じゃ入れない。一人で入店するにも相手待ちが常識。仕事の交渉先や恋人などね。一人でコーヒーを飲むなんてとても勇気がいる」
ジーパンのポケットから懐中時計を取り出す。
「時間かかりますか? 」
「少なくともこの貸し切り時間は大丈夫。この懐中時計はその時の『彼女』との待ち合わせの合図」
「恋人だったのですか? 」
嬉しくなってきた。
「いいや」
「どんな関係? 」
「それを聞かれると困るなぁ。あえて言葉にしたら『友人』かな? 」
「…友人ですか? 」
「ただしお互い一度も顔を見ていないけどね。懐中時計をテーブルに置いて私は隣の席に座る。もちろん顔は見ないようにお互いに背中を合わせるように座ってね」
空になったカップに再びコーヒーを注ぐ。
「どんな理由があったかは今も謎だけど当時はそれで納得した。出会いも突然だった。一人でコーヒーを飲んでいたらいきなり話しかけてきた。『お一人ですか? 』っと。『ええ』と応えると『しばらくの間、このお店に通いますか? 』と応え『あ、はい』と応える。暗黙のルールだったのがお互いの家や出身は言わないこと」
「うーん。今で言えばFacebookやTwitterで話す感覚ですか? 」
「そんな感じだね」