最初の客人は

「それじゃ、そろそろ御暇するよ。お代は? 」
立ち上りポケットを探る。
「お代はもういただきました。『彼女』…さん、待たなくていいのですか? 」
悪戯に聞いた。
苦笑いをして紳士らしく言った。
「ああ…。君が伝えてくれるだろう? 」
「はい」
「美味しいモーニングをありがとう。今度来るときはそれを同じ席に置いてくれ」
「はい」
カラン…とドアの開閉が分かる鈴の音が響き、紳士は店から出て行った。
カウンターには本と先程まで彼が身につけていた懐中時計が置いてあった。
「『彼女』…さん、これで良かったのかしらね」
本を棚に戻し、懐中時計はガラスのカップに入れて食器棚に飾ってある古びた写真立ての隣に置いた。
写真立てには凛とした着物姿の女性の写真が飾られていた。そう、私の亡き祖母の写真。
海の波音が耳に語るように聞こえる店内で呟いた。
「良かったね」
いつもと変わらない店のいつもと変わらない日常が同じ時を刻んでいた。