最初の客人は

再びコーヒーを口に運ぶ。
「顔も姿も見なったのですか? 」
「ああ」
「なぜ、懐中時計が合図になったのですか? 」
コーヒーを運ぶ手が止まった。
海の波の音が聞こえた。
「この懐中時計、『彼女』のだったのさ。時計の裏にイニシャルが彫ってあるが、もう掠れてそれもわからない」
裏をみれば確かにイニシャルらしきアルファベットが見えるが文字が擦れて消えかかっている。
「最初の話が終わった後に渡された。テーブルに着いたらこの懐中時計を見えるようにおいてと。その時に見えたのは『彼女』の手だけだった。白く指先も細くてしなやかな手だった。今の君の手にそっくりだ」
「年も私に近いのですか? 」
「多分」
「多分? 」
「ああ、多分だ。手だけでは年はわからないからね。地酒造りなら麹を使うし、海女なら海に潜るし、農家なら味噌や漬物を漬けるし、絵描きなら保湿は絶対だ」
「そうですね」
この紳士の妙な説得力に納得した。