目指す未来に ⑴

「ありがとうございました」とお礼を言うと紳士は軽く手を上げて喫茶 香風を後にした。その間際に見せた笑みは全てを納得した様子にも見えた。彼が置いて行った懐中時計を入れたグラスと亡き祖母の写真を並べてみると違和感なく収まっている様は理屈抜きに納得している。「うん、このまま置いておこう」と。

さて、ここで疑問もある。確かに喫茶 香風の決まり文句は「お代はいりません。その代わりに貴方の話を」だ。だからメニューもレシピも敢えて無い。お代もお客様が決めて支払う。ここまではまだ良いが、問題はいつ支払いが行われるかだ。実は亡き祖母からは一切聞かされていない。お客様を見送って初めて気がついた。このまま無銭飲食をされたらたまらない。私は慌てて過去の帳簿を見直す。確かに入金はされている。その日だったり、翌日だったり、酷い時には数年後だったりと実にバラバラすぎていた。これもお客様次第だとすれば…私は血の気がひいた。入金しない期間は間違いなく収入ゼロだ。生活費はどうしていたのか?通帳も確認したが店の金額しか入金されていない状態。

私は深く考え思い出す。そう言えば店の奥に小屋がある。まだ中は確認していないが鍵は店と一緒に渡されていた。急足に裏口から小屋に行く。小屋までは少し上り坂になっていて歩くよりも登ると言う方が表現的には合っていた。私もこの小屋については聞かされても見せられてもいない。ただこの場所と手の平にある鍵しか聞かされていない。初めて見る場所だった。