絵描きの夢は ⑸

「私、本当は旅をしたいんです」彼女の口から聞いた口調は真剣だった。スケッチブックに鉛筆を走らせながら。「素敵ですね」「勝手気ままに空に浮かぶ雲のように足を向けて感じる。これだけは裕福な家でも無理なこと」「そうですね……でも勇気が必要ですね」彼女は顔を上げた。私を見る眼差しは何かに気づいた様だ。「そう、その言葉。祖母にも話したのに無かった言葉」

コーヒー豆をサイフォンにセットしながら疑問符が浮かぶ。あの人に限って?そんなはずはないと。「私の両親に気を遣っていたんだと思いますが祖母が初めて否定したんです」だからかぁ……私に聞いて欲しいのは。直接聞けない感じはあるなぁと思ったが。「だから画で大成してからだと私は思って描き続けてはいるんですが今一度合わないんです」「合わない?」「はい。例えばカメラのピントが合わない原因みたいな感じですが私の場合は感性が合っていないというか ……」コポコポ…サイフォンの音が鳴り響く。